子供の頃、瞳はここでそう言った。 今の僕は、何も言わなかった。夢がない人間らしく、何も言わなかった。 教授は責めることもせず、優しげな瞳で僕を見つめてくれるけど 『笑ってると元気になって、元気になると情熱が出て、情熱は活力で原動力で行動力なん だもん。だから : : : わたしは笑うの』 ふと、瞳の言葉がよみがえる。 昔の瞳からは考えられない言葉。 そしてーー今の僕には、当てはまらない言葉。 『転校 : : : したくないよう : : : 』 そう言って涙を流した少女は、どこへ行ってしまったんだろう。 一緒に宇宙へ行こうと約東した少女は、どこへ行ってしまったんだろう。 いや、卑怯な問題のすり替えは、やめよう。 あの時の少女が約束した相手は、一体どこへ ひ善」よ - っ 122
「それから、それから : 瞳の声が、少しわなないていた。 〃理解。した。 僕は、彼女の次の一一一口葉を聞く前に その言葉をーーー彼女自身の口から言わせては、 「ごめんね : : : 一緒に、宇宙に : こ、瞳を抱きしめた。 僕は、言葉が全て紡ぎ出される前 ( 「謝らなきゃいけないのは僕の方だよ、瞳」 小さな肩が震える。 そして鵈咽。 : 嬉しかった、瞳に出〈ムえて : 「僕も : 懐かしさと、値 ~ しさと、恤かさと、安しさ。 僕は、瞳の涙が止まるまで、抱き続けた。 「瞳」 そっと頬をとる。 782
『トラブル ? 』 「違う。東の空、紫色の : : : プリズムみたいな光 : ・ 思いつくままに言葉を並べる僕の脳裏に、不意に正解がひらめく。 「・・・・ : そうか、夜明けだ」 大気がプリズムの役目を果たし、地平線から差し込む陽光を紫、青、オレンジーー赤、 と七色に染めあげる。その光はあたかも、虹の弓のようにも見えた。 僕は言葉を失う。 信じられないくらい美しい光景。地上のどこにもーーーあるいは、他の宇宙空間のどこに も存在しない、大宇宙の至宝。 虹のような輝きが頂点に達し、太陽が完全に姿を見せるとーーープルーの地球が、一気に 視界に飛び込んできた。 僕は、思わず涙をこばさないように気を引き締め、交信を続ける 「 : : : 管制センター」 『なあに ? 』 管制センターから届く声は、あふれる好奇心を隠そうともしていない 不覚にも苦笑を漏らしながら、僕は最も重要な固有名詞を、交信記録に刻む。 「ここには最高の眺めがある。帰ったら、約束通りいつばい話すよ : : : 瞳」 幻 8
「・・・・ : 死ぬ ? まさか」 「 : : : 宇宙飛行士になるんでしょ ? こんな所で無茶したら駄目だよ : : : 駄目だよ : ・ 「なにも泣くこと : : : 」 「かもね : : : あはは、ホッとしたら、なんだか眠くなってきた : 意識が急速に薄れていく。 はんすう 僕は心の中で、瞳の言葉を反芻していた。 ーー宇宙飛行士。 捨てたはずのーーーー子供の頃の夢 それにしても。 溺れかけたのに 妙に安らかな気持ちになっているのは、何故だろう ころ 706
「平気だよ」 僕の目の前に、瞳がいる その言葉の通り、瞳は未知への恐れに小さく震えている。 初めての体験ーーーだけど、それは僕も同じことだ。 「好きだよ : : : 瞳」 「私も : : : 」 キスをする 深く。長く。 そうしていると、次第に気分も高揚してくる。自分がこれから何をするのかという意識 が、急に現実味を帯びてくる。 僕は思い出したように興奮した。 唇を重ねたまま、ゆっくりと瞳を押し倒す。 「 : : : あん」 恥ずかしいのか、少しあさっての方角に目線を向ける童。妙にしおらしくなっている さて。 786
「えーと : : : 」 「褒め言葉です」 「えへへ、そう ? 」 : ま 「なんか、瞳を見てると元気になるよ。バイタリティを分けてもらってるみたいな : ら、天文部だって瞳が強引に誘ってくれなかったら復帰しなかっただろうし、星だって見 ようとしなかっただろうし」 「う 1 ん、確かにまーくんって、たまにちょっと弱気だもんね」 そ、それを言われるとちょっと 「でも、まーくんって本当は、情熱ある人だと思うよ」 「そうかな ? 「そうだよ」 「・・ : : そうかなあ ? 」 「そうなのー うーむ 情熱ある、ねえ 「あはは、悩まないでよ。さ、起きよっと : : : あ、あれ ? 瞳は笑いながら立ち上がろうとして、いきなりバランスを崩した。 「あっとっとっと : : : 」 736
「瞳らしいや。でも、そんなところが好きなんだけど」 「 : : : そうなの ? 」 「好きでたまらない」 「 : : : よく分かんないよう」 「そうだね。ごめん : : : 、い ) おかげで。・ーー・自然に言葉が出た。 下手に気取ろうと思ったのが間違いだったんだ。 自然でいいんだ。普通で。そう考えると、少し気分が楽になる。 「あ : : : ごめん、自分で脱ぐね」 「いや、やらせてよ。僕が脱がせたいんだ」 「えっちい 服に手をかけ、脱がせていく。 ッ 瞳は抵抗もせずに、じっと身体を横たえている。 少し赤面しているのが、かわいかった。 章上着を脱がし、シャツのボタンをはずすと、瞳の上半身が視界に飛び込んできた。 スカートのホックをはずし、引き下げる 第 789
「瞳って : : : すごく感じやすいんだね」 「それは : : : まーくんだから : : : まーくんのが熱いから : 「瞳のだって : : : こんなに強く締めつけて : 「ああ、もっと : : : もっとお : 誘惑の言葉に、まぶたがチカチカするような高ぶりを覚える。 僕は瞳の腰をつかみ、ぐいっと四つん這いの姿勢に引き起こす。 「あ : : : こんなえっちな格好で : : : するの ? 「ああ、そうだよ」 「やあああん」 「ひ、瞳・ : 律動を再開する。 激しく、そして休むことなく腰を打ちつける。 かわ 瞳はさまざまな声色で、可愛らしくよがり続けた。 「あっ、あっ、あっ、あーっー : あっ、あっ、あっ、あっ : : こ、こんなの : : : しびれ : : : っー 「すごい 「いやあああああんー・ 獸のように性交を重ねる 2
『ヘンなの』 『財テクと言ってくれ』 " 財テク ~ という言葉の意味が分からない僕の様子に、ジョンは愉快そうに、流暢な日本 語で言ったものだ。 『まだマサキは、。のことなんか考えなくてもいいのさ ! それより、遊びに来た んだろう ? 』 ジョン、か。今は、どこで何をしているんだろう。 そもそも、ここで彼は何の仕事をしていたんだろう・ーー・以前はの宇宙飛行士だ ったという、あのジョン・ウィリアムズは。まあ、今となっては知る術もないけど フェンスに囲まれた、学校の校庭よりはるかに広い空き地 だれ 周囲を見渡しても、監視する者は誰もいない 「。よな ? 」 つぶや 誰にともなく呟いて、僕はフェンスを越えた。 雑草の生えた大地に飛び降りて、あてもなく散策してみる。 りゅう亠つよう
頬を伝う涙が熱い。 心が痛い その熱さに 『そんなになりたいなら、瞳一人でなればいい 『それがどれだけ僕を苦しめたか ! 夢をあきらめた僕の気持ちなんて、分からないだろ ) っウ【』 ひど なんて酷いことを 僕は あれは断じて、自分であきらめただけの人間が、あきらめざるを得なかった人に対して 言っていい言葉じゃない 心臓病のことを知った時、彼女はどんな気持ちだっただろう。 あれだけの頭脳を持ちながらーー夢も希望も、そして願いもたくさんあるはずの彼女が そんな些細なことで全てを断たれるなんて。 『 Passion iS power 』 章『笑ってると元気になって、元気になると情熱が出て、情熱は活力で原動力で行動力なん 第だもん』 ほお 769