「そ、つ : : 姫ちゃんと会えなくなって、しばらくしてから兄さんがわたしの家にやってきて : : : そ れから本当の兄さんになってくれたんです」 「そう、だったの・・・・ : 」 「これって姫ちゃんだから話すんですけど : : : 兄さんは、わたしにとって幸せになってほしい人な んですー 「幸せになってほしい人 ? 幸せにしてほしい人じゃなくて ? 「はい。 幸せにしてあげたい人なんです。姫ちゃんと最初に会った時のように、わたしが苛められ たり、他にも困ったりしてると、必ず兄さんは飛んできてくれて : : : あ、そういう意味では、姫ち ゃんもわたしにとって幸せになってほしい人ですね。ふふつ : そこまで二人の会話を盗み聞きして、雄真はすももの発言が照れくさく、それゆえに今の行為に 罪悪感を覚えていた。だから、「もう、やめよう」と小雪に言いかけるが : あいづち 今までほとんど相槌を打っていただけの春姫が、 すももの話に触発されたのか、雄真の話題から び離れて自らの想い出を語り始める。 は 「あのね、一度きりなんだけど : : 私にもすももちゃんとよく似た想い出があるの。私の初恋に纏 : これって誰かに話すのは、すももちゃんが初めてかな」 員一わることなんだけど = まさに今から春姫の話が核心に触れる、その時だった。緊張のあまりか喉の渇きを覚えたらしい ラ春姫が、 何か注文を頼もうと視線を移動させたことで、タマちゃんの存在に気づいてしまった。 「えっ ? これって : : : マジックワンドの一部 ? 」 まっ 7
一方、春姫のその言葉から、雄真も盗聴が露見した事実に気づく。 「ま、まずいー 小雪さんっー 5 い。タマちゃ—ん、カムヒア、 ) 」 小雪の呼びかけに応じて、『』のフロアを転がって戻ってきたタマちゃんを、なぜか雄 真がキャッチすることに。そして、カチリという謎のスイッチ音。 「あらあら、雄真さんったら、タマちゃんの自爆スイッチを押してしまいましたね」 / 雪さん、どうしてそんなスイッチが : : : 」 雄真のツッコミを最後まで待たずに、タマちゃんはあっさり自爆を果たした。 不幸中の幸いにして、その爆発に巻き込まれたのは雄真のみ。 気を失う直前、雄真の耳が最後に捉えたのは、「きゃああああ、兄さあああん 2: 、というすもも の悲鳴であったという : ☆☆☆ そして、時間は昼休みから一気に放課後へと飛ぶ。 タマちゃんの自爆によって気絶したのは、雄真だけではなかった。兄が巻き込まれた現場を目の 当たりにしたショックで同じく意識を失ったすももが、まだべッドで横になっている保健室にて、 肝心の雄真の方は意識を取り戻していた。 しかし、一人だけ軽傷を負った雄真を待っていたのは、傷の手当てとともに受ける、春姫からの お説教である。
それは、「お前ら、どこの時代からタイムスリップしてきたんだあ ? である。 さすがに、現実にそれを口に出すわナこよ ) 、 ー。 ( し力なかったが。 そして : : : 『』が空いてきたことで、あらためて雄真の目に飛び込んでくるものがあっ た。本日は偶然にも雄真の知り合い勢揃いというか、隅のテープルですももと春姫が一一人きりで話 し込んでいたのである。 「まあ、あの二人は幼友達だから、不自然でもなんでもないんだけど : : : 」 そうロにしてもなんとなく気になる反面、近寄りがたい雰囲気も感じていた雄真に、特上カレー セットを食べ終えた小雪が助け船を出してくる。 「 : : : 雄真さん、あの二人の話、聞いてみたいのですか ? 聞いてみたいようですね。では : マちゃん、 0— 勝手に話を進めていく小雪の命を受けたタマちゃんは、「あいあいさー」と春姫たちのいるテー プルへと向か 0 てい 0 た。要するに、タマちゃんのカでもって、春姫とすももの会話を盗み聞きし よ、つとい、つ作戦なのだろ、つ。 「いいんですか、小雪さん。こんなことにマジックワンドを使ったりして」 そう言いつつも、雄真はタマちゃんが盗聴し、小雪の持っマジックワンドの本体から聞こえてく る春姫とすももの会話に耳を傾けてしまう : : 二人の話題は、その雄真についてであ 0 た。特にすももの方が「兄さんには小さい頃から助 けてもらってばかりで : と懐かしそうに春姫に語っていた。 ・・タ 8 一 7
雄真に対して軽い調子で話しかけてきた、なぜか言葉を喋る謎の球体は、魔法使いが所有する マジックワンドの一部であった。なんでも『スフィアタム』という名前らしいが、舌を噛みそうな それは短く略されて普通は 「やつば、『タマちゃん』だったか。ということは、やつばり : 雄真が予想した通り、超低空飛行でフワフワと飛ぶタマちゃんの本体であるマジックワンドにち よこんと腰を下ろした、一人の黒髪の女生徒が姿を見せた。 「おはよう ) 」ざいます、雄真さん」 あいさっ たかみねこゆき 丁寧にそう挨拶しペコリと頭を下げたのは、『高峰小雪』という魔法科の一一年生だ。 たたず 凉しげな佇まいと時折見せる柔らかな笑顔が魅力的な美人 : : : というだけにとどまらないのが、 小雪だった。たった今、タマちゃんをいきなり飛ばしてきたように、 たまに突拍子もないことをし でかすお茶目な性格の持ち主なのである。 本来、普通科の雄真が魔法科でしかも学年の違う小雪と知り合う機会はない。きっかけは、なぜ か入学したばかりの雄真に小雪の方から声をかけてきたことだった。 というと、逆ナンのようにも思われるが、そうとも言い切れない。何しろ、その第一声とは : 「あなた、とても不幸な相をお持ちですね」だったのだ。 その後に、小雪の占い、魔法使いとしての能力のそれが、限りなく的中率百パーセントに近いと、 雄真は知った。普通なら先の第一声も併せて、恐れおののいても不思議ではない。 しかし、魔法に関して複雑な感情を抱いているせいもあってか、雄真は特に小雪を避けることも 2
ハレンタインデーに、はひねす ! なく、今はこうして普通に親しくなっている。 とはいえ、先ほどのよ、つにいきなりタマちゃんを撃ち込まれたとあっては、さすがに雄真も何か 一一一一口わずにはいられない。 「あのお、 小雪さん。さっきのはいったい : 「雄真さんって意外と当たり判定が小さいんですのね。ガッカリです」 : ? 当たり判定って、格ゲーのキャラじゃあるまいし : : : それはつまり : : : やつば、俺 にョてるつもりだったとい、つことに : 「まさか。声をおかけしようと思ったのですか、気づいてもらえなかったらどうしようかと : : : そ う、困り果てていたところ、『 ! 』とかけ声を口にしましたら、なぜかタマちゃんが暴走して : 本当に不思議です」 「いや、不思議というよりも至極当然というか : : : で、俺に何か用事ですか ? 」 小雪相手にこれ以上真相を究明しても無駄と、あっさり話題を変えた雄真の顔を、小雪がじ—っ と見つめる。 「そんな風に言葉にしなくても : : : 小雪さん、俺の顔に何か ? 」 「まい。 相変わらずご不幸そうな相が : : : 素晴らしいです。それだけの厄災の相を持った人がこう して五体満足でいられるなんて ! 」 : それは逆にラッキーってことなのかな」 つつ 2
突如頭の中に直接声が響いてきた。 ( おいでおいでおいで : : : ) と。 小雪さんがこっちを微笑んで見つめてるけど : 「、んつ、なんだ、この不思議念波は 2: あっ・ やつばり、あの人の仕業か—つ」 フラフラと小雪のそばに引き寄せられていった雄真に、彼女はペコリと頭を下げる。 「昨日は申し訳ありませんでした、雄真さん。まさか、タマちゃんの自爆スイッチを、つつかりミス で押してしまう人がいようとは : : : おかげでタマちゃんは現在自己修復中です」 : なんか謝られているというよりも、全体的には非難されている気がしますが」 「い」、つ、も : 「そんな雄真さんに朗報です ! ついに占い研究会にも、私と幽霊部員さん以外の部員が入りまし た。名誉部員という形なのですけど」 「えつ、本当ですか ? よかったあ。で、その新入部員というのはどんな人なんです ? 」 まれ 「その方は稀に見る凶相の持ち主なのです : : : このままではどのような災いが降りかかるか心配で すしたので、この際、本人の承諾を無視して入部してもらいました」 ね 雄真の頭に嫌な予感がよぎったのは一一一口うまでもない び は 小雪さん、もしかしてその『稀に見る凶相の持ち主』というのは : 「あのお : 雄真さん、これはあなたの入部を祝して、記念品です。あいにく厄除けの類は切らしてい 「よい、 委まして : : : あ、飽くまでもこの記念品は一時貸与するだけですので」 そう言って、小雪が雄真に手渡したのは、字に曲がった二本の棒、いわゆるダウジングロッド である。 5 8
あ 「もう、杏璃ちゃんったら : : : あっ、違うの、小日向くん、このチョコは : : : 」 「ああ、分かってるって。そこにいるおっちょこちょいの暴走だってのは。神坂さん、そのチョコ を渡そうと思っている相手が他にちゃんといるんだろ ? 」 「えつ、それは : : : 」 杏璃が「誰が、おっちょこちょい、よっ ! 」と憤りを示す中、春姫はなぜか雄真の問いかけに一言 葉を濁した。そして : 「 : : : そのお、よかったら、小日向くん、もらってくれる ? 「えっ : : : ? いや、でも : : : 」 「いいの。本当はこれ、渡すアテのないもので : : : 自分で食べちゃうのも変だし : : : ねつ、お願い、 小日向くん」 しし ( し力ない。準からはよく「雄真の浮いた話って聞いた そこまで言われては、雄真も拒むわナこよ ) ) ばくねんじん ことがないよねえ」などとからかわれる朴念仁の雄真とて、学園のアイドルともいうべき春姫から、 たとえ義理チョコでも頂ければ悪い気はしないという理由もあった。 だが、雄真のささやかな幸福感も、春姫が別れ際にかけてきた言葉で吹っ飛んだ。 「じゃあ、小日向くん、これで : : : あっ、あの可愛い恋人さんにもよろしく」 「おう : : : さーて、俺も帰るとするか : : : って、ん、恋人さん ? それっていったい誰のことを : っ ! 準のことかつまり、神坂さんはまだ誤解したままで : : : 」 これも小雪からの厄除けチョコをすぐに食べなかった報いなのかと、今さらながら雄真はそれを 0
☆☆☆ 放課後。当初、雄真はクラス委員の仕事もなかったことから、久しぶりに準やハチとゲーセンに でも行こうと考えていた。 ところが、春姫に対する呼び捨ての件にまだ拘っていたハチが「裏切り者、今宵はヤケコーラ と準をかっさらいつつ、雄真を置いてきばりにした。 「ヤケ酒とは違う意味で身体に悪そうだな、ヤケコーラってのは。それに付き合わされる準は、ま さび あ、身から出た錆ってことで」 そうこばしつつ、すぐに帰るのもつまらないのでなんとなく学園内の中庭をぶらついていた雄真 は、そこで花壇に水をやっている小雪と遭遇した。 「う—む : ・ : ・なんか、こういうのって絵になるよな。花を愛でる美女というか、小雪さんがホース で花壇の花に : : : ん ? あのホースの先、水道に繋がってるんじゃなくて、エプロンのポケットに 小雪がいつも制服の上につけているエプロン、その小さなポケットから彼女がいろいろなものを 出してくるのは、つとに有名な事実である。 ( 俺も去年の夏場に、「喉が渇いているようですね」っていきなり冷蔵庫を出されたよな。それにし ても、水が出てくるホースとは : : : ポケットの中に水道の蛇口があるのか ? それとも : 深く考えるのはよそう。相手が小雪さんだから、なおさらに ) 昨日のタマちゃん自爆の件もあって、ここは声をかけずに黙って立ち去ろうとした雄真だったが、 こだわ
に組み伏せた。力で振り払うのは可能でも、大事な妹であるすももにそんな乱暴なことのできない 雄真の弱みをついた、見事なマウントボジション取りである。 「お、おい、すもも。本当にやめろって : : : 」 「ふふふ : : : 兄と妹のちょっとしたスキンシップじゃないですかあ。さあ、兄さん。何も気にしな いで、おでこで熱を測る時みたいに顔を近づけて— 「そ、そーいうもんか ? じゃあ : : : って、やつばり違うぞ、これはああー そう一一一一口うと、雄真はすももの口からチョコボンポンを掠め取り、自らのロへ放り込んだ。 「ムシャムシャ : : : すもも、これでいいだろ。ちゃんと食べたぞ、お前のチョコ ・兄さん、酷いです。せつかくのわたしの誠意を : : : ううう : 「ぐすっ、ひっく : 「えつ、おい、何を泣いてんだよ、すもも : : : 俺が悪かったよ。だから : : : 」 「 : : : まあ、いいです。一応、今のも間接キスでしたから。では、もう一度。今度はチョコを取ら ねれないようさっきより深く咥えて : ・・ : んつ」 は 「へつ : : : ? 今のは嘘泣きかよっ ! わわっ ! だから、抱きつくなって : : : はあ—、かーさん、 に早く仕事から帰ってきてくれ— ! デ 雄真のその叫びは、まったくの的外れであった。なぜなら、実際にその直後、音羽は仕事から帰 ってきたわけなのだが : イ 「ほらつ、すももちゃん。もっと顔を抉り込むように近づけて : : : そうそう、あとは一気にプチュ レ チョコの甘さはキスの甘さと一緒なのよ— ! 」 —ッとやっちゃいなさ—いー
そうですから : : : 兄さん、上条さんに伊吹ちゃんの具合、聞いてもらえますか ? 」 「えつ、上条さんに ? ええと、それは : : : 」 まさか、沙耶も昨日から欠席しているとは一一一一口えず、そのためいっそう疑念が募ったすももの追及 するような視線に、雄真は言葉に詰まった。 しかし、そんな彼に、救いの手が差し伸べられる。 「、つお—、つー こんなところにいやがったか、雄真。捜したぜ、このシスコン野郎が ! 全国一 千万の妹熱望者たちに代わって、オレ様が正義の鉄槌をー 「ごめんねえ、雄真。うつかりすももちゃんと屋上でランチしてるってハチに喋っちゃったの。せ つかくの兄妹禁断のラブラブランチタイムなのに」 「準さんに八輔さん、こんにちは、です。でも、準さん、ラブラプだなんて、そんな : : : 」 ハチと準の乱入によって、すももの追及がうやむやになってくれたのだから、雄真としては大助 ー ) よ、つ」ん かりだった。すももお手製の弁当のご相伴にあずかろうと躍起になる、いつもなら鬱陶しいハチの 反応すらも、今回は珍しく役立ったというわけだ。 「何—つ、ラブラプだあ ? ラブラブ手作り弁当に、ラブラブコロッケ、挙げ句に食後はひなたば ひざまくら っこしながらのラブラブ膝枕かあ ? 許さん ! 」 「おい、ハチ。それはお前の願望だろうが。自らの欲望を俺のものにすり替えるな。見ろ、すもも だって引いてるそ」 「えつ、そんなあ : : : オー・マイ・ゴッド ! サノバビッチ ! ュー・ア 1 ・マイ・サンシャ— 736