マジックワンド - みる会図書館


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ともかく、こうして雄真は同じクラス委員という立場上、必然的に春姫と一緒の時間をすごす機 会が多くなった。そのうちに、自然と仕事以外の会話が増えるのも当然だ。 といっても、恋愛沙汰に疎い雄真にそれほど気の利いた会話を望むのは無理というものだろう。 普通科の生徒にとって誰しもが興味深い話題、魔法に関することを、雄真もなんとなく質問という 形でぶつけて、それに春姫が答えるパターンが多かった。 例えば、ある日の放課後、教室でクラス委員の仕事を進めていた時だ。 その日の話題は、持ち主の魔力を増幅して魔法の発動を速める、魔法使いにとっての万能の補助 器である、マジックワンドについてであった。 「・ : ・ : そっか。マジックワンドってのがそれぞれ形が違うのは、自分で決めることができるからっ てわけだ。それで、神坂さんの『ソプラノ』は昔、習ってたトランペットを模して : : : ん ? そう いえば、上条さん : : : あ、妹さんの方。あの子のマジックワンドも : : ・・」 「ええ。おそらくヴァイオリンですね。杏璃ちゃんの『パエリア』は楽器ではなく、愛用していた 羽ペンと聞きました」 「羽ペンを愛用 ? なんか杏璃に似つかわしくないエレガントな感じだな」 「ふふつ : : 今、小日向くんの言ったこと、そのまま杏璃ちゃんに伝えちゃいますよ」 「うつ : : : それは勘弁してほしいなあ。杏璃の『遅刻回避窓からアタック』を受けたくないし」 準がいたらいろいろと囃し立て、ハチが見たら嫉妬の炎を激しく燃やしたであろう、春姫との二 人きりの時間をすごす中、雄真は心のうちで一つのささやかな決断をする。

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雄真の呟きは、信哉を今助けた呪文の詠唱者、その正体を指し示していた。 ヴァイオリンを模したマジックワンドを手にして、沙耶がこの場に姿を見せたのだ。 「沙耶、か。助かったぞ : : : と言いたいところだが、不手際だな。無関係な一般人を巻き込まぬた めの処置、人除けの結界を任せたはずだ」 「兄様、申し訳ありません。ですが、確かに結界は発動しているはずで : : : 」 「ちょっと ! 何ゴチャゴチャ言ってんのよ。これで二対二、望むところじゃない ! 」 上条兄妹揃い踏みにますます闘志を燃やす杏璃だが、こうなると逆に双子ゆえコンビネーション には置れているはずの信哉たちの方が有利だろう。 ところか : 「貴殿らが我らを阻む者と分かっただけで、今宵は十分だ。そして、我らの受けた主命は戦いその ものにあらず。それでも、どちらがこの場で命拾いをしたのかは、いずれまた日をあらためて : ふうしんらいじん す 信哉はそう告げるやいなや、彼のマジックワンド『風神雷神』を振るった。 とどろ ね 轟く雷鳴と閃く雷光、それをめくらましとして、信哉と沙耶はこれこそ鮮やかな引き際という び のだろう、立ち去っていった。 「あっ、ちょっと待ちなさいって : : : くつ、もういない。信哉のヤッ—、命拾いしたのは絶対そっ 委ちだっての ! 」 、わば、それ キッパリとそう言い切る杏璃も、それほど自分の力を過信しているわけではない。し をあえて口にすることで自分を叱咤激励しているのだろう。 ひらめ

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をせぬうちに引き下がることだ」 信哉の実直な性格からして、その言葉は挑発や過信ではなく、単に本心から出たものなのだろう。 だからこそ、恐ろしいともいえる。 対して、その短気な性格上、真っ先に言葉を返すと思われた杏璃だが、彼女は別の形で信哉に応 酬した。 : エスタリアス・アウク・エルートラス・レオラ ! 」 信哉たちの姿を視界に捉えた瞬間から呪文詠唱を始めていた杏璃は、十分に練り込んだ魔力でも って先制攻撃を放ったのだ。が、ほば同時に沙耶の唇も動いていた。 めい、さよ、つ 「幻想詩、第一一楽章 : : : 明鏡の宮殿 : : : 」 『明鏡』というだけあって、沙耶の唱えた術には反射の作用があった。杏璃の放った無数の光弾 の幾つかが押し返され、逆に襲いかかってくる。 その杏璃の前にすかさず飛び出したのは、春姫だ。 み、・つ当、い 呪文を唱えながらマジックワンド『ソプラノ』を掲げた春姫は、威力はないが相殺には十分な魔 法弾で、沙耶が撥ね返した攻撃を無効にした。 「なかなかいい読みをしているな、神坂殿。だが、我が『風神雷神』の一撃は : 杏璃を庇ったことで態勢の整い切っていない春姫を、信哉の持っマジックワンド、『風神雷神』 が薙ぎ払う : : : はずだった。しかし、見えない壁に阻まれるように、『風神雷神』の斬撃が途中で止 まってしまった。

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、や : : ・・迷惑とまでは思っていないか・ : : ・えーい、勝手にせい ! 」 おそらく、すももと伊吹はいつもこうい 0 た調子なのだろう。ゆえに、雄真の手助けは必要なさ そうだ。いざランチが始まって目の当たりにした光景で、雄真もそれを理解した。 「ふふつ、今日はわたし特製のコロッケだよ。はい 0 、伊吹ちゃん : : : あん」 「う、うむ = ・ = ・あん = = ・・おお、これは美味い。すもも、いつもながらそなたの料理の腕には感 心を : : : なっ、小日向の兄 ! 貴様、なぜここに : 「今さら、なぜ 0 て言われても = ・ = ・一緒にランチをする 0 てことで、さ 0 きからず 0 といただろう が。それにしても、まさかナチ = ラルに『あん』とかするほど仲良くな 0 ていようとは = = = 」 うううううつー」 「ぬ : : : ぬぬぬぬぬ ! て、天誅 主に『あ—ん』の現場を見られた気恥ずかしさによ 0 て怒り心頭とな 0 た伊吹は、背中に担いで いたマジックワンド、傘を模したそれで雄真の頭をバシバシ叩く。 : ほらつ、すももが次のオカズの こら、伊吹、そんなに恥ずかしがらなくても : 「痛たたた ! 『あ—ん』を待ち構えてるぞ」 「ま、まだ、そんなことを = = ・・忘れろ。即刻、今見たことをその頭から消し去るのだあ ! 」 小柄なわりに力のある伊吹のマジックワンド殴りはかなりの痛さであるが、それがすももの新し し『友達』の照れ隠しの行動だと思えば、難なく我漫できる雄真だった。 ☆☆☆ そして、また別の日の昼休み。 てんちゅう

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「ええと : : : 入部の件もいきなりですけど : : これで俺に宝探しでもしろと ? 」 「そのロッドの名称は、スケさんとカクさんです。では、頑張って一山当ててくださいね」 他の場所にある花壇にも水を撒きに行くのか、一 = ロいたいことだけ一一一一口、つと、小雪はマジックワンド に乗って何処かへと去っていった。 「あっ、小雪さん : : : 名誉部員、か : : : まあ、勧誘を手伝っておいて、俺自身がフリーの身という のも変だと入部のことは考えてたんだけど、なんか釈然としない」 そして雄真は、手の中にあるダウジングロッド、スケさんとカクさんを見つめる。 「一山当てろって一一一一口われてもなあ。この辺で万が一にもそんなものがあるとしたら : そう呟いた雄真が視線を向けたのは、ほば再建が済みつつある魔法科の校舎、その裏手にある深 い森だ。 普通科の生徒の立ち入りは校則で禁じられているその場所に、雄真は入っていく気など少しもな かった。単に、入学して以来、近くで見たことのない森をちょっとその目で確認してみようと思っ ただけで。 だが、雄真は見かけてしまった。その森の中に足を踏み入れていく、春姫の姿を。 「あれは、春姫じゃないか。何してるんだろう。おー すぐにそれをやめた。遠目からでも今の春姫が見たことの 春姫に声をかけようとした雄真だが、 ないほど真剣な表情をしているのが分かったからだ。 ( それに : : : 春姫はマジックワンドを手にしていた。いつもは担いでいるあれを : : : )

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: ハッ、もしかして今、俺ってば貞操の危機 「おい、杏璃、付き合、つってこんなところで何を : 知らない女の人についていくんじゃないって、かーさんにいつも : 「なっ : ハカ言ってんじゃないわよっ ! 誰があんたの貞操なんか」 杏璃はそう怒鳴っただけで、肝心の雄真の疑問には答えず、黙々と何かを始めた。 持参した何本かのシャフトを組み上げて、サッカーポールほどの正六面体のキュープを完成させ : それを放り投げると、マジックワンドをかざして空中で固定させる。 「雄真、よく見ていなさいよ : : : 」 それだけ雄真に告げると、杏璃は羽ペンを模したマジックワンド「パエリア』を構えて、キュー プを睨み据えた。 「オン・エルメサス・ルク・アルサス 杏璃のその呪文で発動したのだろう、キュープの中に光が集束していく。そこに閉じ込められた 光はやがて球状にその表面を波立たせ、渦を巻き始める。 「魔力を一点に集束させて : : : それを維持してるのか : 魔法に詳しくない雄真でも、今杏璃がしているのが魔法の修業の一つだと分かった。 同時に、言葉にしてみれば簡単だが、膨大な魔力の集束と維持、それを制御し続けるには相当な 集中力が必要なことも。 そして、どれほどの時間が経っただろうか。 「杏璃、額の汗がすごいぞ。手が離せないなら、俺が拭いてやろうか ? 」 7 08

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雄真に対して軽い調子で話しかけてきた、なぜか言葉を喋る謎の球体は、魔法使いが所有する マジックワンドの一部であった。なんでも『スフィアタム』という名前らしいが、舌を噛みそうな それは短く略されて普通は 「やつば、『タマちゃん』だったか。ということは、やつばり : 雄真が予想した通り、超低空飛行でフワフワと飛ぶタマちゃんの本体であるマジックワンドにち よこんと腰を下ろした、一人の黒髪の女生徒が姿を見せた。 「おはよう ) 」ざいます、雄真さん」 あいさっ たかみねこゆき 丁寧にそう挨拶しペコリと頭を下げたのは、『高峰小雪』という魔法科の一一年生だ。 たたず 凉しげな佇まいと時折見せる柔らかな笑顔が魅力的な美人 : : : というだけにとどまらないのが、 小雪だった。たった今、タマちゃんをいきなり飛ばしてきたように、 たまに突拍子もないことをし でかすお茶目な性格の持ち主なのである。 本来、普通科の雄真が魔法科でしかも学年の違う小雪と知り合う機会はない。きっかけは、なぜ か入学したばかりの雄真に小雪の方から声をかけてきたことだった。 というと、逆ナンのようにも思われるが、そうとも言い切れない。何しろ、その第一声とは : 「あなた、とても不幸な相をお持ちですね」だったのだ。 その後に、小雪の占い、魔法使いとしての能力のそれが、限りなく的中率百パーセントに近いと、 雄真は知った。普通なら先の第一声も併せて、恐れおののいても不思議ではない。 しかし、魔法に関して複雑な感情を抱いているせいもあってか、雄真は特に小雪を避けることも 2

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それは、「お前ら、どこの時代からタイムスリップしてきたんだあ ? である。 さすがに、現実にそれを口に出すわナこよ ) 、 ー。 ( し力なかったが。 そして : : : 『』が空いてきたことで、あらためて雄真の目に飛び込んでくるものがあっ た。本日は偶然にも雄真の知り合い勢揃いというか、隅のテープルですももと春姫が一一人きりで話 し込んでいたのである。 「まあ、あの二人は幼友達だから、不自然でもなんでもないんだけど : : : 」 そうロにしてもなんとなく気になる反面、近寄りがたい雰囲気も感じていた雄真に、特上カレー セットを食べ終えた小雪が助け船を出してくる。 「 : : : 雄真さん、あの二人の話、聞いてみたいのですか ? 聞いてみたいようですね。では : マちゃん、 0— 勝手に話を進めていく小雪の命を受けたタマちゃんは、「あいあいさー」と春姫たちのいるテー プルへと向か 0 てい 0 た。要するに、タマちゃんのカでもって、春姫とすももの会話を盗み聞きし よ、つとい、つ作戦なのだろ、つ。 「いいんですか、小雪さん。こんなことにマジックワンドを使ったりして」 そう言いつつも、雄真はタマちゃんが盗聴し、小雪の持っマジックワンドの本体から聞こえてく る春姫とすももの会話に耳を傾けてしまう : : 二人の話題は、その雄真についてであ 0 た。特にすももの方が「兄さんには小さい頃から助 けてもらってばかりで : と懐かしそうに春姫に語っていた。 ・・タ 8 一 7

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「たぶんね。信哉の持つあの木刀、マジックワンドには強力な魔法レジスト機能がある上に、接近 戦のセンスじゃ、あたしも春姫も敵わないはず」 「まあ、木刀をマジックワンドにするヤツだからな。性格もほとんど武士だし」 「そう : : : 上条くんは強敵。その妹の上条さんだって : : : だから、小日向くんは少しでも危険を感 じたら、絶対に自分の身を守ることを優先して」 「くつ、魔法が使えない身の俺としては仕方ないと分かっていても、そうはっきり言われると : って、え ? 春姫、いつの間に : いっしか、杏璃と同様に信哉たちの襲来を察知した春姫が、合流を果たしていた。 「もう小日向くんを止めないけど : : : 今のことだけはちゃんと約束して。いいわね」 「は、はい、分かりましたあ ! 重々承知しましたです、はい」 「ははつ、春姫ったらすっかり雄真のこと、尻に敷いちゃってるんだ」 杏璃のからかう一言葉に、春姫と雄真が「そういうのじゃありません ! 」「違うって」とそれぞれ反 は論した直後、周囲の風景が変わった。 大木が鋭利な刃物でズバッと斬られたような切り口を見せ、あちこちに倒れている光景、それ 即ち、信哉が存在する証明であった。 、バトル的にはその背中を預かる意味の妹、沙 そして、信哉のそばにはしつかりと兄に寄り添う 一耶の姿もあった。 フ 「やはり、きてしまったか : : : されど、俺と沙耶が組む以上、神坂殿と柊殿では止められぬ。怪我 すなわ かな

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: お前がこんなことをしているのを知ったって : : : 絶対に友達でいてくれるぞ」 「黙れ : ・・ : 黙れえええっー ならば、この場で貴様を葬ってやる。それでも、すももが私の友達で いてくれるかどうか、試してくれるわあああっ ! 」 雄真にとって、そのプリクラは一発逆転の切り札のようなものだった。 しかし、雄真の想像以上にすももの存在は伊吹の中で大きかったようで、精神的に追いつめられ た彼女は、手加減なしで攻撃魔法を雄真に向けて撃ち放っー 具体的には、光の矢だったものが集束を見せてまるで彗星の如き様相で魔法陣から降り注がんと し、雄真も ( ここまでか : : : ) と半ば覚悟を決めたのだったが : 「幻想曲幻夜 : : : 安寧の調べ : : : 」 誰かがその呟きとともに、手の中のマジックワンドに張られた弦を弾いた。その結果、伊吹の描 いた魔法陣が外部からの干渉を受けて揺らぎ、魔法攻撃が無効化された。 弦が張られているマジックワンド、即ちヴァイオリンを模したそれの持ち主とは : : : 沙耶である。 いいのか、こんなことして ? これじゃ、きみが完全に ね「か、上条さん ! 助かったよ : : : って、 は伊吹と : : : 」 「小日向様、お下がりください。私では伊吹様の魔法をすべて防ぐことは : : : 」 円 「沙耶、か : ・ 小日向雄真を助けるとは : : : そこまで男などに誑かされたか ! 」 わたくし 大「伊吹様 : : : 今のは小日向様だけを助けたのでは : : 私は伊吹様を : : : 」 「何か言いたし、冫 少耶。もう一一度と私の前に姿を見せるな : : : そう申し渡したはずだ」 わたくし たぶら 2 7 7