那津 - みる会図書館


検索対象: はぴねす!
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る、あの『秘宝』に関係する事故のせいなのです」 雄真の顔に緊張が走る。今までその名称以外は漠然としか捉えていなかった『秘宝』、それが事 せんりつ 故とはいえ人間を死に至らしめた事実に、雄真は戦慄を覚えたのだ。 フィクションの世界では見慣れていても、リアルな死という現実に反射的に恐れを抱いてしまう のは、一般人の雄真には無理からぬことだろう。 きわ 「そして、那津音様はそのいまわの際に伊吹さんを次期当主に推して : : : その時に那津音様とかわ した約束を今、伊吹さんは守ろうとしているのです。ただし、那津音様を敬愛するがゆえにその約 束を歪めて捉えてしまった結果、あれほど『秘宝』に拘ることに : 「約束、ですか。亡くなった人とのそれは厄介ですよね。そういえば、小雪さんも確かその那津音 さんって人との約束があって、そのために動いていたはずでは : 「ええ。私と那津音様との約束とは : : : 一一一一一口、『伊吹を頼みます』と。なのに、まだ私は形見一つ、 伊吹さんに渡せていない有様です : : : 」 そう言って、軽く唇を噛み締める小雪を、雄真は励ます。「とにかく、もう一度、伊吹と話をし てみましよう」と。 雄真のその励ましに、珍しく小雪が虚をつかれたような表情を見せた。 「 : : : 本気なのですか、雄真さん ? 風の噂で聞きましたよ。一昨日、神坂さんと一緒にまた伊吹 さんからの襲撃を受けた、と」 まっ、誰に聞いたのかはあえて追及しませんけど、 「小雪さん、風の噂ってのはちょっと : 778

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かしら。それと たぶん龍笛に宿る那津音さんの心のおかげね」 鈴莉のその一言葉は、今何が起きているのか皆目分からなかった春姫の耳にも届いていた。 だから、気づく。那津音の龍笛に『秘宝』の暴走を止める力があるとはいえ、十年前の暴走事件 において、結果的に那津音まで生命力を奪われて命を落としていたという事実に。 「御薙先生っ ! では、このままだと雄真くんも、その那津音さんと同様に : 「大丈夫よ、神坂さん。私が雄真くんをみすみす危険にさらすような真似をすると思って ? 」 鈴莉の言う通り、今回は十年前の時とは違って、『秘宝』の暴走からそう時間が経っていないと いう状況が幸いする。雄真の奏でる龍笛の音色によって、ほどなくして水晶と伊吹が放っていた異 常な光は治まった。 しかし : : : 『秘宝』の暴走という事態は終息しても、それで終わりではない。 十年前に信哉と沙耶の父親、崇夜の命が助からなかったのと同じに、『秘宝』を暴走させた張本 人、伊吹の命の灯火が消えかけていた。 ね 伊吹を救う方法は、ただ一つ。鈴莉がそれについて説明する。 は 「雄真くんの魔力を式守さんに分け与えれば助かるはずよ。私を含めた、ここにいる誰よりも膨大 で一なキャパシティを持っ雄真くんの魔力を、ね」 「俺の魔力を伊吹に ? けど、俺は魔法の制御に関して自信が : : : そうだ。この前みたいに春姫に 大サポートしてもらえばなんとか : ・・ : 」 「それは却下よ。ただでさえ式守さんという他人に魔力を供給するんだから、いわば輸血のような 233

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るため今頃は英国へ : : : 』というオチだった、あのお母さんですね」 「その通りですが : : : 雄真さん、意外と根に持っタイプだったのですね」 話が少し横道にそれたが、小雪の母親からの情報とは、独断で行動していた伊吹を止めるべく事 態の収拾にとうとう式守の本家が動き出した、とのことだった。 「おそらく今頃は、式守の現当主の護国様から伊吹さんに対して、呼び戻し状が届いているはず です」 「そうですか : : : それじゃ、さすがの伊吹も『秘宝』のことは諦めて : : : るかなあ ? あの頑固を 絵に描いたような伊吹が」 「はい 私はそれでも止まらないと思います、伊吹さんは」 小雪がそう言い切るのには、根拠があった。 しばし雄真の顔をじっと見つめたのち、小雪は伊吹が『秘宝』に拘る最も大きな理由について語 ねり出す。 は 「かって、『式守那津音』という女性がいました。私にとっても、伊吹さんにとっても姉のような方 こであり、式守家の次期当主という立場にありました」 「えっ ? 次期当主って伊吹のはずじゃ : : : あっ、『かって』に『ありました』ってことは、今はも 気 うこの世に : : : そうか。その那津音さんって人は、小雪さんのお気に入りの場所を好きだったって な い、つ : : : そして、あの笛を形見とした・・・・ : 」 み 「 : : : はい。実は、那津音様が命を落とすことになったのも、現在すべての問題の中心となってい

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「上条さん、『あのお方』ってのは : ・ : 那津音さんという人のことだよね。その人と伊吹の約束につ いての話は小雪さんに聞いたけど : : : 彼女が亡くなってからだいぶ経つはずなのに、どうして伊吹 は今になってそんなに『秘宝』に固執するんだ ? 雄真が疑問に感じたその点に関しては、彼自身もまったくの無関係ではなかった。 伊吹が本家の意向に逆らうほどに、ある意味暴走するきっかけとなったのは、半年くらい前、式 守家から『秘宝』を託された人物、雄真の実の母親である鈴莉が永久に『秘宝』を封印する、そうい う噂が伝わってきたせいだったのだ。 「御薙先生がそんなことを : : : それを耳にしたんじゃ、次期当主としては黙っていられないよな、 伊吹も」 な一ら 「伊吹様は那津音様の亡骸の前で誓いを立てられました。那津音様の遺志を継ぎ、必ずや式守の地 に眠る魂たちを鎮め、安寧へと導く : ・ : と。そのためには、あの式守の『秘宝』が不可欠と思い込 んでしまったのです。けれど、あれは : : : 」 「分かった、上条さん。その『秘宝』については、俺から御薙先生に話をしてみる。それで何かい い方向へ向かえば : : とにかく、俺も伊吹ともう一度、話をしてみたいんだ」 わたくし 「ありがとうございます、小日向様。私も伊吹様をお捜しして、いま一度、進言してみるつもり です。実は、こうして小日向様のもとを訪れたのは、小雪様との会見の機会を得ようと思ってのこ とでしたが、 もはやその必要はないようです。小日向様なら、伊吹様を : : : 」 そう言って、すがるような熱い視線を向けてくる沙耶に、雄真は戸惑ってしまう。もともと『小 782

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大団円で、はびねす ! 『御薙の息子』ってのはちょっと : : : 『雄真』でも『雄真さん』でも、なんなら『雄真ちゃん』でもい いぞ。ちゃんとこの俺を見て話せよ。家や血筋とかじゃなく ! 」 「戯言を : : : 直系ではない私が式守の家を継ぐための道、それがどれほど険しいものなのかも知ら ぬそなたが : : : 魔法から逃げ出した貴様なぞに私の何が分かるつ ! 」 「伊吹、お前 : : : そうか、那津音さんとは : : なるほどな。けど、那津音さんはお前のことを本当 の妹のように想っていたはずだ。血が繋がってるかどうかじゃなくて、伊吹、お前そのものを見つ めて : : : だからこそ後継者としてお前を選んだんじゃないのか ! 」 残念ながら、雄真の言葉は伊吹に届かない。雄真の口から『那津音』という名前が出るたびに、 ふんぬ ここまで比較的冷静だった伊吹の表情に貭怒の色が浮かんでいく。 「だ、黙れえっ ! 貴様如きが姉様の名を軽々しく口にするな ! 」 その怒号に続いて、伊吹は呪文を詠唱し、前回と同様に : いや、前回よりも遥かに巨大な魔法 陣を屋上の空に描いた。 「小日向雄真 ! 貴様が捨てた魔法、その力がどれほどのものなのか、その身でとくと味わうがい : ラ・ディーエ ! 」 魔法陣から降り注ぐ無数の光の矢、それが一点集中で雄真に襲いかかった。 「ちつ、話を聞けってのに、このせつかちが : : ハ \ ああっー、」 命までは奪わないようにと伊吹は手加減しているのだろうが、それでも雄真の身体はしたたかに 床に叩きつけられた。その服は裂け、肌のあちこちに血の筋が浮かぶ。 275

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大団円で、はひねす ! 春姫のその提案に、一同は乗った。その誰もが無理かもしれないと頭では分かっていても、何か をせずにはいられなかったのだ。 問題は、雄真である。一人、何もできず、そればかりか「雄真くんは、離れていて ! ーと春姫に 命じられ、彼は血が滲むほど虚しく唇を噛み締める。 いつもの生意気な態度はどう 「くそっ、なんなんだよ、俺は : : : おいつ、伊吹、目を覚ませつー したっ ! あの調子でなんとか『秘宝』なんてもんに抵抗してみろって ! くつ、俺の声が聞こえ ないのか : : : 声が届かないのなら : : : 届かないのなら、代わりに : そう呟く雄真は何かに導かれるように、懐に入れてあった物を : : : 小雪から託された龍笛、那津 音の形見を取り出し : ・ 「みんなが魔力に想いを乗せているように、俺も : : : 那津音さんの想いが残っているこの形見の品 なら この笛が紡ぎ出す調べなら : : : きっと伊吹に届くはず : : : 」 うたぐち 雄真は龍笛の歌口に唇を触れさせ、胸の奥からゆっくりと息を吹き込んだ。 すると、調べが静かに奏でられた。指も呼吸も自然に一つの旋律をなぞり、『秘宝』の暴走によ って震える空気を鎮めていく : ・ 雄真が龍笛を奏でるその姿に目を見張ったのは、鈴莉とともにちょうど今この場に転移してきた、 小雪である。 「この旋律は : : : どうして、雄真さんが那津音姉様のあの曲を : : : 2: 」 「 : : : そうね。おそらくあの子が、式守さんを救いたいって、無我夢中で願っているからじゃない 23 7

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エピローグ それは、四月の最終日曜日のことだ。 「えー、みなさん、飲み物は行き渡ったでしようか ? 」 「見れば分かるでしようが。何百人もいるわけじゃないんだし」 「、つつ、杏璃ちゃんってば、準や雄真よりもツッコミがきつい : この高溝八輔が音頭を取らせていただきまして、この良き日と桜の花に : : : 」 : っていうか、高溝なんとかって誰のこと ? 「あはは、似合わな—い : 「じゅ、準、お前、長い付き合いだってのに、人の名字をなんだと思って : : : 」 「じゃあ、ハチは放っておいて : : : みんな、かんば— 準の音頭によって、「ああああ—、そんな—、オレの立場が : : : 」と落胆するハチを除いた全員 の「かんば—し ! 」という一一一一口葉が揃った。 新学期が始まってからすっとやりたいとハチが騒いでいた、お花見パーティー されど、いろいろあって延び延びになっていた時季遅れのそれを、この日雄真たちは学園の敷地 内にある公園で開いていた。 時季が時季なだけに、ほとんどの桜は散ってしまったあとだが、小雪のお気に入りの場所、そし て那津音の魂が眠る、この桜の木だけは未だ咲き誇っている。 そう、まるで那津音が雄真たちを祝福しているかのように。 : コホン。えー、それでは不肖、 238

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どうやら小雪と少女は初対面ではなく、バレンタインデーに起きた魔法科校舎倒壊事件も、この 一一人の力が衝突した結果のようである。 だからといって、両者の魔法の実力が同等かどうかは分からない。 小雪と対峙する謎の少女の方が実力は上なのか、終始彼女は不敵な笑みを見せている。 が、小雪の次の一言で、少女の表情は一瞬にして強張った。 なつね 「式守那津音様 : : : 私は彼女の遺志によって、こうしてこの場にいるのです」 「なっ : き、貴様・ : しばし、息をするのも憚られるような緊迫感と、時を刻むのが遅くなったかのような静寂が二 人の間に流れ : : : 痺れを切らした少女の、小さな歯軋りが聞こえた。 「 : : : 何が言いたい、高峰小雪よ ! 」 「那津音様 : : : その名を覚えておられるのなら、思いとどまることです。あなたがなそうとしてい ねることは、あの方の望むことではありません」 「もうよい、一一一一〕うな ! そなたなぞに、何が分かるというのだ ! 」 一瞬沸騰するように激昂した少女は、すぐに冷静さを取り戻す。 「ふん、興が削がれたわ。今宵は退こう。だが、次にまみえる時はそのような御託し ( こよ耳を貸さぬ。 その時に問うのはロにあらず : : : 」 期 そう言いながら、少女はそっと自らのマジックワンドを指で撫でた。 新 : これに問うてほしいものだな、高峰小雪」 はばか はぎし

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「あの木の下には、那津音さんの遺骨の一部が埋められていて = = = だからでしようね、その魂が宿 0 ているせいで、今年もあの桜だけは四月下旬の今にな 0 てもまだ咲き誇 0 ていて : : : あの魔道書 を隠すなら、あそこ以上の場所はなかった : : : 」 確かに、その場所を掘り起こす行為は、伊吹にと 0 て大いなる禁忌であろう。式守本家からの呼 び戻し状に、《伊吹に : : : 手に入れることはできぬ》とあったのも納得がいく。 ( けど : : : 実際には、手に入れた。それほど伊吹は追いつめられてる 0 て証拠だ。結局、俺は伊吹 に何もしてやれないのか : : : ) 無意識に、雄真は手で懐を探っていた。触れたのは、、 月雪から託されていた那津音の遺品、あの 龍笛だ。 そして : : : ようやく一行は、『杜の祠』へと到着した。 一一つの足跡、おそらく伊吹と信哉のそれを辿るように祠の地下へと進んでいくと、床が一段低く 窪んでいる部分に魔法陣が刻まれている。 それこそが『秘宝』に通じるゲートであった。 ゲートを開く呪文の記された魔道書は伊吹の手に渡 0 てしま 0 たが、呪文自体は鈴莉が記憶して いたので、追跡は可能だった。ところが : : 悪いんだけど、ゲートを開く呪文は私が展開するから、先にあなたたちだけで行ってもら える ? 」 突然、鈴莉がそう言い出したのだ。 222

10. はぴねす!

じゃあ、あのことも知ってるんですね、小雪さんは。俺がそのお : : : 御薙先生の子供だったってこ 「ええ、まあ、それなりに。ですから、伊吹さんはこれまで以上に雄真さんに : : : それでも、雄真 さんは伊吹さんと話をしたいと : : : そう、ですか : 『秘宝』を奪い返そうと伊吹が一方的に戦いを仕掛けてきている状況の中、実際にその身に魔法 攻撃を受けていても「もう一度、話を : : : 」と口にする雄真を見て、小雪は一つの決意を固めた。 「これを : : : 雄真さんがこれを持っていてくれますか ? 」 一度部室の奥へ入っていった小雪が再び戻ってきた時、その手にあったのは、いっぞやここで雄 真も見たことのある和笛だった。 「えつ、これは確か : : : 」 「そう、那津音様の形見です。『伊吹が本当に私の志を継ぐに相応しい人物になった時、渡してほ りゅうてき ねしい』との言葉とともに私が託された、龍笛と呼ばれるものです」 「龍笛 : : : ? あっ、いや、その名称はともかく、そんな大事な物をどうして俺に : 「伊吹さんが那津音様の志を継ぐに相応しい人物になった時 : : : 本当にそれを見極められるのは、 持一雄真さん、き 0 とあなたのような人なのでしよう。物事を深く考えすぎず、直感でがむしやらに行 気動できるような・・・・ : 」 な 「なんか、それって微妙に単純バカって言われてる気も : : : けど、分かりました」 み 雄真は、小雪の想いをそうするようにその手から龍笛を受け取った。すると、手のひらから胸の 7 79